「退院調整看護師」のニーズが高まっていると聞いたことはあるけれど

「どのような役割なの?」
「どんなスキルを身につければいいの?」
「役立つ研修やセミナー情報を知りたい」

などと思っている方も多いのではないでしょうか。

国は治療が終わった後は速やかに退院し、自宅で療養してもらう「在宅医療」を推し進めています。

そのねらいは、

  • 住み慣れた地域で過ごしたいという患者さんの思いを実現すること。
  • 必要性の低い入院を減らし、増え続ける医療費を抑制すること。

そこで重要な役割を担うのが「退院調整看護師」です。

この記事をご覧いただければ退院調整看護師の役割、やりがい、必要なスキルや求人の探し方などの情報が得られるはずです。

 

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退院調整看護師の役割

退院調整看護師とは

退院支援センター医療連携室などと呼ばれる退院調整部署にキーパーソンとして配置される看護師のことで、地域の保健・医療・福祉サービスとも連携しながら、在宅医療へと向かう患者さんと家族をサポートしていく役割を担っています。

(参考:ヨミドクター

退院調整は、患者さんの「諦め」を「安心」に変える仕事

在宅ケア移行支援研究所・宇都宮 宏子さん

画像①宇都宮宏子さん

大学病院の退院調整看護師を経て、地域の在宅医療コーディネーターとして独立。

退院支援・退院調整の第一人者として知られる。

まず最初に宇都宮さんのインタビューの一部をご紹介します。

  • 退院調整看護師の役割は“患者さんの「諦め」を「安心」に変える”こと。

例えば、大腿骨頸部骨折をした高齢の患者さんがいるとしましょう。通常、地域連携パスにより、2、3週間をめどに退院し、その後は回復期病院に転院の流れが多いです。でも、実は、手術後3週間経過すると、自宅環境が整えば自宅に戻れる患者さんもいるのですが、決められたパスにのって転院し、そこから2、3か月入院継続すると、家族が「施設にいる方が安心」と思いはじめ、リハビリを頑張っていた患者さんも、「家には帰れないんだ…」と諦めることになってしまうのです。
(これを)「家に帰りたいな」という安心に変えるのが退院支援・退院調整です。医師や病棟看護師、MSW(医療ソーシャルワーカー)のほか、地域のケアマネジャー、在宅ケアスタッフと相談して、患者さんに必要な医療や看護・ケアが提供できる在宅療養の環境を整えます。(中略)そして患者・家族ともこの計画を共有する事で、その方らしい暮らしを再構築できるようになるのです。

引用:ナースフル

「退院支援」と「退院調整」

  • 近年、在院日数がどんどん短縮化されており、十分に回復する前に退院したり、点滴や呼吸器を着けたままで退院したりするケースも珍しくない。
  • 退院後の生活に不安を抱く患者さんや家族が増え、なかには病院に見放されたと嘆く人もいる。

このようなことから、看護師が中心となり、在宅でも安心した療養生活が送れるように、患者や家族を支援していくための取り組みが広がってきました。

それらを「退院支援」「退院調整」と呼びます。

この2つの言葉は曖昧に使用されることが多いのですが、下のような違いがあります。

退院支援

患者さんおよび家族が,生活の場を変えて療養を継続するという選択肢があることを理解し,どこでどのような療養生活を送ればよいのかを自ら選ぶことができるように関わること。

患者さんを退院調整部門へ橋渡しする病棟(外来)の仕事。

退院調整

患者さんが居宅などの環境においても必要な医療が継続していくよう,居宅サービス利用,療養環境整備,必要物品の調達,療養費の試算といった多方面からの調整を行うことであり,安心な退院に向けて直接的援助を担うチームメンバーを調整すること。

病棟(外来)から橋渡しされた患者さんを、地域の医療者(医療機関)へ橋渡しする連携部門の仕事。

画像②退院支援と退院調整

退院調整看護師の役割が「退院支援」「退院調整」のどちらに比重が置かれるのか、施設によって異なるようです。

(参考:NHKニュースおはよう日本ヨミドクター新潟がんセンター病院医誌味の素学術専門情報
 

退院調整看護師が求められる理由

医療者と患者さんのギャップを埋めるため

  • 特に急性期病院では数日数週間すれば退院することが一般的だが、時として「追い出された」という感覚を持ってしまう患者さん・家族がいる。
  • それは、医療者と患者さんの間で「治療終了」の捉え方にずれがあるため。
  • 医療者にとっての「治療終了」とは、折れた骨がくっついた、悪いできものが取れた、など医学的介入が終了した時点であるのに対し、患者さんの考える「治療終了」とは、おそらく入院する前の自分と同じ状態に戻ったと感じること。
  • 医療者は「もう治ったから早く退院して次の患者さんのためにベッドを空けてほしい」、患者さんは「まだ思うように動かないから家に帰るのは不安、まだ入院していたい」という認識のギャップが生じてくる。
  • 入院初期から治療後の必要なケアや、在宅医療で必要なこと・困ることを相談するなど、早い段階から退院後を意識付けすることで互いのギャップを埋め、患者さんに安心を提供することが退院調整看護師の役目。

(参考:味の素学術専門情報都市と地域と医療の「いま」を問う

入院から在宅へという医療の大きな流れを支えるため

  • 医療界では「病院だけで医療が完結する時代」はすでに終わり、入院から在宅へという大きな流れが動き始めている。
  • 厚生労働省は2012年の秋に「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)を発表し、在宅中心の認知症ケアがずいぶん前進した。
  • すでに在宅医療の現場では、在宅医と訪問看護師はもちろん、色んな職種が協業して患者さんを支えており、そこに、病院の看護師も加わることは必然的。

(引用:ナースフル

国の医療費を抑えるため

  • 専任の退院調整看護師を配置する病院は増えているが、2016年4月の診療報酬改定により退院調整看護師のニーズはさらに高まってくるものとみられる。
  • かねてより国は医療費削減のため、診療報酬の中に「退院調整加算」というものを設けて患者さんの退院を促してきたが、この改定により「退院調整加算」が「退院支援加算」に変更され、大きく見直された。
  • この見直しの中には、「退院支援・地域連携の専門看護師・社会福祉士を2病棟に1名以上配置する」という追加要件があり、これを満たすことで診療報酬が加算され病院の収入は増えるが、在宅医療が増えることによって、国の医療費は抑えられるという仕組み。

(参考:ナースフルマガジン

退院調整が必要なケースはおもに5つ

すべての入院患者さんについて退院調整が必要なわけではありません。退院調整を要するのは、医療上の課題や生活・介護上の課題が多いケースです。

厚生労働省の調査によると、入院患者さんの77%は60歳以上の方なので、当然のことながら高齢の患者さんが対象となるケースが多くなります。


画像③退院支援か必要な患者
そのような患者さんを入院後の早い段階で、下にあげたようなスクリーニング票(例)を使って、選び出します。
画像④スクリーニンク票
(引用:在宅移行の手引き

なお、医療上の課題別で退院調整が必要なケースはだいたい5つのケースに分けられます。

  1. 末期がんの患者さん
  2. 高齢の患者さん
  3. ALS(筋萎縮性側索硬化症)・パーキンソン病など、神経難病の患者さん
  4. 小児難病を持つ子どもの患者さん
  5. 精神疾患のある患者さん

(参考:ヨミドクター

退院調整のプロセス

入院後48時間以内に始まる退院調整

さきに述べたように、患者さんに入院時から退院後を意識してもらうため、退院調整は入院時から始まるケースが多く、第1段階の「スクリーニング」は、入院後48時間以内に始まることが多いようです。

(参考:退院調整看護師に関する実態調査

退院調整の流れ

画像⑤退院調整の流れ
(引用:在宅移行の手引き

データから見る退院調整部門の現状

退院調整部門の設置率が多いのはこんな施設

退院調整部門の設置率は全体で約67%ですが、特に設置率が高いのは下記のような施設です。

  • 急性期中心の病院(約71%)
  • 病床数の大きい病院(500床以上の病院で約84%)
  • 看護職員の配置が高い7対1看護体制の病院(約78%)
  • 特定機能病院(約87%)
  • 救急救命センター(約80%)
  • 個人病院(約86%)

なお、次のような施設は設置率が低い傾向にあるようです。

  • 専門病院(60%)
  • 医療法人(53%)

【全体で見た退院調整部門設置率】


画像⑥設置率
(引用:退院調整看護師に関する実態調査

病床規模により退院調整看護師の業務に違いが

病床規模が小さい病院
  • 「直接的な指導」が多くなる傾向

・患者さんへの退院後に行う療養指導
・患者さん・家族への介護技術と医療技術の指導

  • 退院調整と他の業務の「兼任」の割合が高くなる傾向
病床規模が大きい病院
  • 「間接的な関わり」が多くなる傾向

・在宅での生活のための調整
・後方支援的な業務
・「退院準備・在宅ケア移行支援」に関するカンファレンスの企画・開催

  • 退院調整「専任」の割合が高くなる傾向

なお、全体で見ると、退院調整看護師を「専従」で行っている割合は 58.7%、「兼任」は 38.3%でした。

【専従と兼任の割合】
画像⑦専任と兼任の割合
(参考:退院調整看護師に関する実態調査

退院調整の必要な患者さんを選ぶのは病棟看護師が最多

  • 調査によると、約56%の病院で病棟看護師が退院調整の必要な患者さんを選んでおり、次いで退院調整部門の職員、主治医(ともに17%程度)である。
  • 退院支援・退院調整の第1段階であるスクリーニングを行うのは、患者さんのことをよく把握している病棟看護師であるケースが多いという結果に。

他職種との連携が大切

退院調整部門には下のグラフのように、さまざまな職種が配置されています。

なかでも「医療ソーシャルワーカー(社会福祉士含む)」「看護師」の順で配置率が高くなっており、施設により両職種が配置されている場合や、どちらかのみなどさまざまです。


【退院調整部門1施設あたりの職種別平均人数】
画像⑧職種別平均人数

  • 看護師以外の多職種に、スクリーニングやアセスメント、カンファレンスなど退院調整の各段階に参加してもらうことは患者さんにとってより良い支援へとつながる。
  • さらに、ケアマネジャー(介護支援専門員)や訪問看護師など在宅支援の専門家などとも連携し、相談・協力を進めていくことが大切。
  • 経済的な問題は社会福祉士と一緒に考える必要がある。

(参考:退院調整看護師に関する実態調査病棟看護師の退院調整に関わる役割の実態調査報告味の素学術専門情報
 

求められるスキルと人物像

社会制度や地域医療についての深い知識

退院調整看護師には地域の医療・介護・福祉サービスの知識、地域での受け入れ先となる介護施設や訪問看護事業者との連携が求められるため、社会保障や地域の医療施設など、総合的な知識が要求されます。

コミュニケーション能力と調整力

退院後の生活に不安を感じている患者さんや家族に話をし、その不安を取り除くこと、地域に積極的に出ていき、情報を集められること、院内外の医療従事者と十分なコミュニケーションをはかれる人材であることが求められます。

ベテラン看護師が務めることが多いのが現状

退院調整部門に配置されている看護職員は、看護師としての経験年数が平均 23.9 年と、経験年数が長いベテランが多いという調査結果が出ています。

なお、退院調整の経験年数は平均 3.3 年と短めで、まだこの分野が新しいことの表れといえるでしょう。

訪問看護の経験者や介護支援専門資格を持つ人も多い

訪問看護の経験がある看護師は約4分の1(26.1%)、介護支援専門員資格を持つ看護師は約3分の1(34.9%)という調査結果からは、在宅医療の経験がある看護師が多い現状がうかがえます。

退院調整と訪問看護は密接に関係しています。こちらの記事もご参考下さい。

【訪問看護師まるわかり】利用者1.5倍!成長分野の実態に迫る

(参考:ナースフルマガジン退院調整看護師に関する実態調査

やりがいと大変な点

やりがい

  • やり遂げた時の達成感が大きい

岐阜県総合医療センター・退院調整室看護師さんへのインタビューより
画像⑨増井さんと丹羽さん
増井さん(左)と丹羽さん(右)
Q.特殊性のあるお仕事ですよね。しかしその分、やりがいも多いと思うのですが。
丹羽さん:
すべてをやり遂げたときの達成感は大きいですね。ただ最も大切なのは、いい意味で八方美人になることかもしれません。ご希望のすべてにマッチングできるとは限らないので、何らかの妥協点を探し出すことも必要になってきます。もちろん、患者さん、ご家族との信頼関係があってこそ可能になる作業です。
増井さん:
患者さんの退院後の暮らしと健康のあり方について考え、その具体策を支援することって、単純にスゴイ仕事だと思うんです。言い換えれば、患者さんの今後の人生を左右するかもしれない局面に立ち会っているのですから。転院一つをとっても、患者さんの病状、経済状況、転院先の医療充実度、アクセスなど、あらゆる点を考慮して一緒に答えを導き出していきます。 また丹羽の言うように、すべての患者さんがベストな状態で退院できる訳ではありません。しかしそれも、患者さんやご家族の“人としての成長を支援する”ことで取り返すことができるんです。小児科を例に挙げるなら、人工呼吸器をつけたお子さんの自宅療養に対し、最初は不安しか口にしなかったお母さんが、私たちの指導で日に日にたくましくなっていかれる……。そんなステキな時間を共有できるから、この仕事はやめれないんです。

引用:MedianNet

大変な点

  • 退院調整しないと退院できない人ばかりだった

以前の病院では、独居高齢者や身寄りがない人、低所得者などが多く、退院調整しないと治療が終わっても退院できない人ばっかりでした。ソーシャルワーカーもいましたが、忙しすぎて続々と病欠になってしまい、一時は欠員状態で・・。
400床規模の急性期病院でしたが、病院としても力をいれざるを得ず、専従で退院調整ナースされている方がいました。

引用:看護師お悩み相談室

スキルアップのために

研修・セミナー情報

外部の研修を受講する退院調整看護師は約7割にのぼります。

それだけ、専門的な知識が必要になるということでしょう。

各県の看護協会や全国訪問看護事業協会などで退院支援看護師の養成研修などを開催していますので、一部をご紹介します。

公益社団法人 東京都看護協会
※平成29年度 東京都退院支援強化研修

全国訪問看護事業協会
※ 退院支援研修だけでなく、訪問看護研修もあります。

役立つ資格

退院調整看護師になるための特別な資格はありませんが、ここでは役立つ資格をご紹介します。

  • 介護支援専門員(ケアマネージャー)

上述のように、退院調整看護師の3分の1が持っている資格です。

  • 専門看護師

がん看護
老人看護
精神看護
慢性疾患看護

など

  • 認定看護師

訪問看護
緩和ケア
皮膚・排泄ケア

など

専門看護師・認定看護師について詳しくはこちらの記事をご覧ください。

専門看護師と認定看護師の違いがわかる!自分に合ったキャリアアップを知る方法

(参考:退院調整看護師に関する実態調査公益社団法人愛媛県看護協会

書籍紹介

宇都宮 宏子 (編さん), 三輪 恭子 (編さん)
※ 冒頭でご紹介した宇都宮宏子さんの著作です。

全国訪問看護事業協会 (監修), 篠田 道子 (編集)

是非見ておきたいWEBサイト

退院支援や在宅医療への移行についてとても詳しく掲載されたサイトを2点ご紹介します。
 

退院調整看護師は希少求人

退院調整看護師として求人が出ているのはごくごくわずかです。

その少ない情報を集めるには、インターネットを活用することが最も効率的でしょう。

中でも、最もおすすめの方法は次の2つです。

求人検索エンジンで探す

求人検索エンジンとは、インターネット上にある、転職サイトやハローワーク、病院や施設のウェブサイト上などに掲載されているあらゆる公開求人を一括で探すことができる「求人情報専門の検索サイト」です。

ここで、「退院調整 看護師」あるいは「退院支援 看護師」といったキーワードで検索してみてください。希少求人を探すには最も効率的な方法のひとつです。

【主な求人検索エンジン】

「退院調整 看護師」で検索してヒットした求人の一例です。
画像⑫キュウサク
(引用:キュウサク

看護師転職サイトで探す

看護師転職サイトとは、看護師を就職させることで病院や施設から紹介手数料を受け取る人材紹介サービスのことで、看護師さんは無料で利用できます。

転職サイトは「病棟」「外来」など担当業務で絞り込んで検索できることが一般的ですが、「退院調整看護師」で絞り込める転職サイトはほとんどないので、「退院調整」「退院支援」などのフリーワードで検索することがおすすめです。

希少な求人ほどネットで公開される前に決まってしまうこともあるため、事前に登録しておくのも一つの方法です。

参考までに主な転職サイトでの公開されている退院調整看護師の求人数一覧です。(2024年10月時点)

順位転職サイト名求人数
1位看護のお仕事3,897件
2位医療ワーカー43件
退院調整看護師の求人を見つける方法

上記のように現状の求人サイトでは、退院調整看護師の求人は非常に少なく、個人で探すのは困難な状況です。

求人サイトでも今後探しやすく対応がなされていくと思いますが、時間はかかりそうです。

どうしても退院調整の求人を探したい方は、転職サイトに登録すると、キャリアコンサルタントが求人を探して紹介してくれます。

看護師転職サイトはこちらを参考にしてください。

■安心して利用できる看護師転職サイト3社

求人の探し方について詳しくはこちらの記事をご参考下さい。

夜勤専従看護師はきつい?働く看護師のリアルな口コミと入職時の注意点_夜勤専従看護師の求人の探し方-自分で探す方法

まとめ

さて、退院調整看護師は病床規模の大きい急性期中心の病院で、経験年数の多いベテラン看護師がその任につくケースが多いことや、他職種との連携が必須であることなどをご説明してきましたが、いかがだったでしょう。

そして退院調整看護師は、患者さんに安心を与えるため、また在宅医療を推進していくため、ひいては医療費の削減のために必要な存在であることなどもおわかりいただけたと思います。

超高齢化社会に突入しているわが国では、患者さんに寄り添いながらスムーズに在宅移行を行う退院調整看護師の存在は今後さらに貴重になっていくことでしょう。

この記事があなたのステップアップの一助となれば幸いです。

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