皆さんの中には「精神科の看護師」になることを考えている方も、いらっしゃるのではないでしょうか?
精神科の看護師は、他の科に比べて「勤務時間が決まっていて、時間外の仕事が少ない」、「体力的に楽」というイメージがあり、転職先や、産休などからの復職先として考える方が多くいらっしゃいます。
一方、心の病を取り扱う科の特色上、どうしてもぬぐえないのが、「不安定な患者さん」をケアすることへの不安。
とりわけ、「患者さんによる暴力・暴言問題」を心配し、最後の最後まで迷う方も少なくないようです。
でも実際、
- 暴力ってどれぐらい頻繁に起こるの?
- どんなタイプの暴力問題があるの?
- 何かそれを防げる・避ける方法はないの?
と、疑問を持つ方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そして中には、すでに現場で働いていて、患者さんからの暴力問題についてのアドバイスや同じ立場の人たちの経験談などを求めている方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、実際に精神科看護師が働く上で経験する暴力問題について、少しでもはっきり見えてくるよう、お話してみようと思います。
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精神科看護師が受ける暴力
精神科の看護師さんにとって、患者さんからの暴力問題は「決して無視することはできないが、多くの場合十分に対処できるリスク」と言えます。
なぜそう言えるのでしょう。
まずは暴力問題が起きる割合とリスクの大きさについて詳しく見てみたいと思います。
暴力に遭うリスクの大きさ
閉鎖病棟においては7割が暴力問題を経験
閉鎖病棟に働く看護師の中で暴力を経験した割合(2005年、安永薫梨)
精神科の閉鎖病棟で働く看護師さん230名を対象に行われた調査では、158人が「暴力を受けたことがある」と答えています。
閉鎖病棟に働く看護師さん10人中7人は暴力問題を経験していることになります。
つまり、精神科の閉鎖病棟で働く時には、「暴力問題が起きるかもしれない」と、日頃からある程度は身構えする必要があると言えるでしょう。
(出典:「精神科閉鎖病棟において患者から看護師への暴力が起こった状況と臨床判断」安永薫梨、福岡県立大学看護学部紀要 3.11-20.2005年)
精神科病棟全体では暴力経験の割合が減少
しかし、精神科全体を視野に入れた際の暴力問題のリスクは、上に紹介した数値よりさらに低くなります。
それは、
- 閉鎖病棟の保護室(隔離室)における対応は、患者さんと看護師さんの安全を最優先に守れるようにマニュアル化されている。
- 認知症への対応や高齢者への介護といった要素が強い病棟では、暴力に至る可能性が低い。
- 包括的暴力防止プログラムの研修などにより、暴力に発展させない・受けないためのスキルを身に着けることができる。
などの理由があるからです。
また、精神科には閉鎖病棟以外にも「解放病棟」、「高齢者・認知症病棟」、「急性期病棟」など、いくつかの病棟が設置されています。これらの病棟での暴力問題の割合は、閉鎖病棟に比べるとかなり低いことが分かっています。
そのため、全体における暴力問題の割合はもっと低くなるのです。
もちろんそれでも、暴力問題に遭わないとは言い切れないでしょう。
そのため、精神科に働く看護師さんには「危険手当」が与えられます。また、普段から注意や身構えはある程度必要になってくるものと思います。
それでは、このような暴力問題が原因で、結局看護師を辞めてしまう方は、実際どれぐらいいるのでしょうか。
暴力が原因で精神科看護師を辞めるケースはマレ
患者さんからの暴力問題が原因で退職する精神科看護師さんは、実はあまり多くないことが分かっています。
なぜなら、
- 暴力問題には原則的に複数人のスタッフで対応
- 男性看護師が中心となることが多い
という理由から、「暴力問題が一個人の負担になることはあまりない」ためです。
また、全国の全ての看護師さんの中で、精神科看護師さんの離職率は、「他の科に比べて低い」ことが良く言われています。
その主な理由は「業務負担が少ないこと」ですが、具体的には、
- 精神科の患者さんには日常生活行動(ADL)が自立している方が多いため、トランスファーやオムツ替えなど、体力を使う業務が少ない。
- 残業がほぼなく、定刻に帰ることができる。
- 夜勤の場合、見張りが主な仕事となるため、休憩時間も規定通り取ることができる。また、夜勤の業務負担が他の科より少ない。
といった感じです。
精神科看護師さんが退職する主な理由としては、「働いている病院の給料が低い」、「もっと医療行為を学びたい」などが挙げられています。
なので、精神科での業務負担、とりわけ暴力問題が理由で退職するケースは少ないと考えることができます。
(参考:精神科の求人)
以上をまとめると、最初に触れたように、精神科の看護師さんにとって患者さんからの暴力問題は「決して無視することはできないが、多くの場合十分に対処できるリスク」と考えることができます。
それでは、実際にどんな暴力問題が起きているのか、その主なケースと原因について見てみたいと思います。
暴力のケースとその原因
様々な暴力問題のケース
看護師さんが患者さんから受ける暴力は大きく2つのタイプに分けられます。
1つは「身体に関わる暴力」、そしてもう1つは罵声や暴言などの、「言葉による暴力」です。
2つとも、患者さんや看護師さんの年齢、性別、経歴に関わらず、幅広く起きていることが分かっています。
ここに紹介する事例は、福岡県立大学の安永薫梨先生が、精神科の「閉鎖病棟」で起きた暴力問題について行われた研究内容の一部を抜粋したものです。
(参考:「精神科閉鎖病棟において患者から看護師への暴力が起こった状況と臨床判断」安永薫梨、福岡県立大学看護学部紀要 3.11-20.2005年)
「閉鎖病棟」で起きた事例の中で「特に目立つもの」を紹介していることに注意してください。
- 患者さん(50代女性)が幻覚・妄想状態で看護師さん(20代女性、経歴5-10年)の指に噛みつく(第2章事例1)
- 患者さん(70代男性)が、自分の要求に応じたにも関わらず、看護師さん(30代男性、経歴5-10年)の頭をたたく
- 患者さん(50代男性)同士のケンカの仲裁に入った看護師さん(20代男性、経歴5年未満)が飛ばされる(第2章事例2)
- 患者さん(50代女性)が、自分を抑制した看護師さん(40代女性、5年未満)を蹴とばし、唾を吐きかける
- 患者さん(50代男性)が看護師さん(40代女性、経歴5-10年)に妄想し、集中的に暴言、嫌がらせをする
- 入院拒否の患者さん(30代男性)が看護師さん(30代男性、経歴10-20年)に暴言、威嚇する
もちろん、この2つのタイプの暴力が複合的に起きる場合もあり得ると考えられますね。
少々目立つケースと言いつつも、このような問題が実在していることは否定できない、というのが実態といったところでしょう。
暴力問題の主な原因は現場での臨床判断ミス
このような「患者さんからの暴力」はどうして生じるのでしょうか。もっとも直接的な理由として、
現場で直接対応する時の判断ミス(臨床判断のミス)
引用:精神科閉鎖病棟において患者から看護師への暴力が起こった状況と臨床判断」安永薫梨、福岡県立大学看護学部紀要 3.11-20.2005年
が挙げられています。先ほどの暴力の事例をまとめた安永先生は、同じ論文で、暴力問題が起きる状況とその原因についてこのように述べています。
暴力を受けた看護師の臨床判断(現場で直接対応した時の判断)については、観察した情報など知識をもとに患者の問題を分析したり、判断したりせず、先入観やスタッフの人数が少ないなどの基準により判断が行われていた。
引用:精神科閉鎖病棟において患者から看護師への暴力が起こった状況と臨床判断」安永薫梨、福岡県立大学看護学部紀要 3.11-20.2005年
つまり、“あの患者さんはおじいちゃんで普段おとなしいから、まあ大丈夫だろう”とか、“今は夜勤中で、スタッフが3人しかいないんだから、これくらいは1人でやるか”と言った、ちょっとした甘い考えが結果として患者さんからの暴力を招いたということです。
その他に一般的に「原因」として知られている考えには、次のようなものがあります。
- 患者さんのことを敬う心・態度が足りなかった。
- 患者さんのことを十分に理解しなかった。
- 他の分野の人たちとの協力が足りなかった。
- 暴力に対する注意が足りなかった。
これらは一般論としてもちろん十分気を付けるべき項目と言えますが、暴力に至る直接的な原因とは言い切れないところがあります。
第2章では、暴力問題が起きる原因と、その後の看護師さんたちの取り組みの事例を紹介します。
その後、おすすめの予防対策や、看護師さんを守るための保護制度などについてより詳しくお話ししたいと思います。
暴力問題の心得
暴力問題とその後の立ち直りへの取組み(事例)
暴力問題の事例
第1章でも一度触れましたが、暴力が起きる直接的な原因と考えられる
“現場で直接対応する時の判断ミス(臨床判断のミス)”
について、それがどういった流れで暴力に発展したかを、事例を通してみてみたいと思います。
<患者さん(50代女性)が布団の上にきちんと正座していた>
“スタッフ3人しかいないし、みんなそれぞれ忙しいかな。”
“おばちゃんだし、じっとしているから大丈夫だろう。”
⇒1人で保護室のドアを開け、お膳を置いた。
⇒患者さんがいきなり走り出そうとした。
“スタッフ3人しかいないし、“いけない!とめなきゃ!”
⇒患者さんの右手を引っ張った。
⇒患者さんに「お前が(保護室に)入れ」と抵抗され、暴力を振われた(蹴り、叩き、顔を引っかき、右指を噛みつくなど)。
⇒駆け付けた男性スタッフに止められた。
この事例の場合、暴力を招いたのは、
- 「おばちゃん(高齢者)だから」という先入観
- 「今は3人しかいないから」といった、状況に頼った判断
に基づいて、「一人で保護室のドアを開けたこと」にある、と言えるでしょう。
対応に当たった看護師さんが患者さんを敬う気持ちが足りなかったとは言えないと思います。
また、普段から患者さんに対する理解も十分あって、逆にそれがふと油断してしまったきっかけになったのかもしれません。
<二人の患者さん(うち一人50代男性)がささいなことでケンカをしていた>
“ケンカを止めなきゃ!”
“患者さんを守らなきゃ!”
⇒二人の患者さんの体を抑え、引き離した。
⇒患者さんに「邪魔をするな」と突き飛ばされた。
⇒後日、患者さんに「あの時はごめんなさい」と直接謝罪された。
この場合は、
- 「とにかくケンカを止めなきゃ!」といった、状況に精いっぱいの判断
に基づいて、「身構えせず患者さん二人の間に割り込んでしまったこと」が、結果的に暴力につながったことに注目する必要があります。
これら暴力の問題は、看護師さんにとって、とてもつらい経験であり、働く意欲を下げてしまうものです。
後で患者さんの状態が良くなってきたり、患者さんから直接謝罪を受けたりしても、なかなか看護師さんが受けた傷は、簡単には癒えるものではないと思います。
特に、暴力による怪我やショックのほかに、今まで築いてきた「患者さんとの人間関係が一変してしまうこと」のショックが、看護師さんにとってつらいものがあると言われています。
なので、なかなかそこからすぐに立ち直ることは難しいかもしれません。
それでは、このような暴力問題によるショックから回復し、立ち直るための方法には、どんなものがあるのでしょうか。
判断ミスの再認識と客観的な反省
実際に暴力問題に遭った後は、
- 当時やってしまった判断ミスをしっかり再意識すること
- それを客観的に反省すること
が、ショックからの立ち直りを助けてくれるし、今後の暴力を防止する働きにつながる、という報告があります。
それは、今まで患者さんに対して行ってきたケアのうち
- 「悪かったこと」、「仕方なかったこと」を明らかにする
- そこから、「改善する部分」と「割り切る部分」を見出す
- それをもとに前向きに考えることを助ける
ことに効果があるからです。
事例1の看護師さんは
“…やはり、判断や考えが甘かったと思い、観察力の未熟さを痛感しました。…これからはどうしようかなと迷った時は一人じゃなくて、他のスタッフに行ってもらうとか、暴力を受ける前に防ぐことができるような対処方法を自分でとらないといけない。”
事例2の看護師さんは
“仲裁に入った時は(自分が)暴力を受ける・受けないという思いよりも、その状況を止めないといけないということが先だったので考えずに行動してしまった。…先輩看護師に相談すると、けんかの仲裁に入る際、危険が伴うことを判断しなかったことは、自分の責任でもあるから…と言われました。”
どうでしょうか。
二つの事例の看護師さんたちが、それぞれ反省し、割り切って、これからのことを考えようとしているのが分かると思います。
無理してポジティブに持っていく必要もなく、だからと言って何もかも手放すのでもなく、じっくりと、時間をかけて問題と向き合いながら、一つひとつ「改めること」・「割り切ること」が、立ち直りに役立つと言えると思います。
おすすめの対処・対応策
それでは実際に現場で働いている看護師さんたちが進める予防策を紹介したいと思います。
普段からの取り組みに関しては、以下のようなものがあります。
(参考:看護師お悩み相談室、みみさん)
患者さんと気さくに話す
これは、患者さんとの関係づくりとして必要なものと考えられます。
たとえ患者さんの妄想だとしても、それにグッと踏み込んだ質問をして、患者さんの世界に入り込むことで、信頼関係を築いていきます。
言葉遣いに気を付ける
これも、患者さんとの信頼関係を作るの一環として絶対必要なものと言えるでしょう。
印象や対応の悪い看護師さんは患者さんにとって妄想の対象になりやすく、暴力に発展する可能性が高くなると考えられます。
逆に、患者さんと信頼関係をうまく築き、きちんと関心を示してくれる看護師さんは、比較的に暴力を受ける可能性も低くなることが言えると思います。
患者さんとの距離を保つ
毎度の現場での対応や判断の一つとして、安全な距離を確保することを心がける必要があります。
患者さんの表情がキツくなったり、興奮したりするなど様子が変わってきた時には、手や足が届かない距離に離れることを意識するのが大事です。
また、一人で対応しないことも、気を付けましょう。
特に保護室での対応などは、病院ごとのマニュアルに従い、複数人のスタッフで対応することが大事です。
表情の変化に気づく(空気を読む)
急な異変や様子の変化をいち早く気づいてこそ、その場での正しい判断につなげることができると思います。
また、患者さんの様子の変化にいちいち振り回されるのではなく、敬いつつも毅然とした態度を取ることが重要です。
○暴力を振った患者さんへの対応策
前章で紹介した安永先生は、患者さんが看護師さんに暴力を振う理由を「患者側」から探った研究を進め、その中にある患者さんのニーズやきっかけから、以下のようなアドバイスをされています。
(参考:「精神科病院における患者から看護師への暴力の実態と看護の在り方 ― 看護師に暴力を振るった患者を対象とした質問氏調査より ― 」安永薫梨、福岡県立大学看護学部紀要 7(2).72-81.2010年)
①患者が看護師に振るう暴力には、何か意味があるということを念頭に置く。
②看護師は、患者がなぜ、看護師に暴力を振るったのか、どうすれば暴力に至らずにすむのかなど率直に話し合う場をもち、今後、どのようにしたら暴力は防ぐことができるのか、一緒に考える。
③日頃の関わりの中で、患者のプライバシーに配慮することを心掛ける。
④患者の要求に対して、無視や拒否で対応する前に、なぜ、患者はそのような要求をするのかを考え、そして、看護師自身の中で生じている感情に焦点をあて、対応する。
⑤患者が自分の要求を看護師に言語化できることは、患者の強みであると気づく。
⑥看護師自身が患者の要求に対して、無視や拒否せざるを得ないときは、そのままにせず、患者を交え医療チームで話し合い、よりよい看護を追及する。
⑦適切に臨床判断が行える能力を向上させるために、看護師が思考、感情、行為に重点を置きながら振り返りを行う。
⑧限りある看護師それぞれの経験を共有し追体験することで補う。
⑨患者が認識している調子が悪くなってきた時のサイン(いらいらする、じっと座っていられないなど)を把握し理解する。
⑩定期的にサインを見直し、振り返りなどを受け持ち看護師と一緒に行う。
⑪日頃から患者に対して、関心をもって話しかけることを心がけながらコミュニケーションをはかる。
⑫言語的コミュニケーションだけでなく、非言語的コミュニケーションも活用する。
⑬患者との交流に遊びや、絵などの視覚に訴える方法を媒介として用いる。
⑭患者にとってわかりやすい、不愉快に思わない「やってみよう」、「気をつけよう」と思える説明や注意の仕方について、ロールプレイを用いて患者の立場から考えてみたり、*アサーショントレーニングを行う。
⑮患者と看護師がお互いに信頼できる関係性を築くために、患者を一人の人間として、尊重し、優しく関心を持って接し、かつ確かな知識や技術をもとに看護を行う。
*アサーショントレーニング:自分も相手も大切にした自己表現を身につけていくトレーニング法
(詳しくは、株式会社日本・精神技術研究所へ)
看護師の保護措置&プログラム
ここでは、精神科の看護師が受けられる暴力防止の代表的な研修プログラムである、「包括的暴力防止プログラム」について紹介します。
○包括的暴力防止プログラム(参考:e-らぽ~る)
包括的暴力防止プログラム(Comprehensive Violence Prevention and Protection Programme: CVPPP)は、現場で起こる暴力や攻撃性に対して適切に介入することで
- その場にいる全員を守る
- 暴力が起こらないようにするために、早い段階で手を下し、発生を防ぐ
- 暴力事態が起こった後に生じるストレスや不快な感情を軽減させる
ことを目的としたプログラムです。このプログラムは、
「攻撃的な患者に対してケアとしていかに患者に寄り添い、その怒りがおさまるように治療的に関わるかという視点から、安全で治療的な環境を守る」
という理念のもと、患者さんの「身体に介入する技術を習得」するだけではなく、攻撃的な患者さんにいかに正しいケアをあたえるか、という「治療的な視点」でプログラムが成り立っていて、
- リスクアセスメントの方法(危険性(リスク)を特定し、見積もり、優先順位をつけ、減らす一連の手順)
- コミュニケーション技術による興奮状態への介入法(ディエスカレーション)
- 身体的介入技法(チームテクニクス、ブレイクアウエイ法)
- 心理的サポート(ディブリーフィング)
からの内容になっています。
技術の習得については「CVPPPトレーナー養成研修」として4日間のトレーニングコースが設けられており、この4日間のトレーナー養成研修を受けた者のみ、「トレーナー」として自施設内で他のスタッフに技術を伝えることが認められています。
このプログラムに関しては、以下のホームページでより詳細な内容を確認できます。
<精神科医療情報総合サイト e-らぽ~る> CVPPPに関する内容の確認
https://www.e-rapport.jp/team/action/sample/sample11/01.html
<国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター> プログラムの研修申込
http://www.ncnp.go.jp/training/h25_cvppp.html
※ その他各指定病院にてCVPPPプログラムの研修を行っています。
耐えうるストレスと避けるべきリスク
この章では、今まで扱ってきた暴力問題を踏まえつつ、より広く、精神科で働くことについてお話したいと思います。暴力・暴言はもちろん精神科の看護師さんにとって無視できないリスクですが、その他にもいくつか気を付けるべきことがありますので、簡単に述べていきます。
まずは自分を守ること
精神科看護師にとって何より大事なことは、
「看護」そのものにストレスを感じず、看護のお仕事に専念できる、安定した環境の中に自分の身を置くこと
です。
精神科看護師は他の科と大きく異なって、主に患者さんの心をケアすることが特徴です。
そのためにどうしても、人間関係を上手く作れたり、コミュニケーション能力があったり、割り切ることができる性格だったりと、人の性格や人柄が仕事によく効いてくるのが事実です。
ここで、性格が仕事の内容と上手く合わない場合、それがストレスとして看護師さん自身の心の中に溜まっていくかもしれません。
そうすると、患者さんに対してケアを行っていく中、程度の差こそあれ、影響が及ぼしていくでしょう。
そういった不安要因が大きくなっていった場合、暴力のような問題に発展する可能性も否めません。
自分の心を元気に保ってこそ、患者さんの心も元気にすることができると思います。
努力よりは人柄
それでは、どんな方が精神科で働くにより向いているのでしょうか。
以下のような方々ということができると思います。
人とコミュニケーションを取るのが得意(好き)な方
患者さんとの関係づくりを積極的にしていかなければならない立場上、「コミュニケーション能力」はぜひあったほうが良いと思います。患者さんへのケアの多くの部分を担う、重要な項目です。
「割り切る・切り替える」ことが上手な方
真摯に患者さんと向き合いつつも、患者さんの気持ちに引っ張られてしまったり、巻き込まれたりせずに毅然と立ち振る舞うことが、精神科に務める上で特に求められる重要な徳目だと思います。
このような性格がイメージとして「明るい・活発」といった形で表現されていることもあるかもしれません。
忍耐強い方
患者さんは、必ずしも病院側の願うペースで回復していくとは限らないと思います。
患者さん一人ひとりのペースに合わせた看護を行っていく時は、がむしゃらに頑張ることよりも、忍耐強く付き合っていくことが、より多く求められるでしょう。
もちろん多くの精神科看護師さんが患者さんの回復のために努力されていることは間違いありませんが、その方向性は普段イメージする「頑張る」こととは少し違うかもしれません。
絶対避けるべきリスク
患者さんの妄想に入り込みすぎたり、感情を入れ込みすぎたりしないこと
暴力問題はもちろんですが、必ずしも直接害を与えてくる暴力じゃなくても、患者さんの妄想に入り込みすぎたり、感情を入れ込みすぎたりして、看護師さん自身が病を得てしまうケースが実は少なくないと言われています。
もちろん患者さんのために尽くして働くことが看護師さんの使命ではありますが、何も自分自身が潰れてまで働くべきではありませんし、実際そういう状態では看護師というお仕事が務まらないと思います。
限界と感じているのに我慢しながら仕事しないこと
精神科看護師として働き始めて1年で、すでに患者さんに対して怖さを感じたり、苦手意識を強く持ってしまったりして自信を無くした場合、速やかに転科・転職することを薦めるケースが多々あるようです。
何も限界まで我慢して耐えながらすべき仕事ではありません。
周りの同僚や先輩と良く相談し、常にコミュニケーションを取りつつ、働くリスクの大きさを客観的に判断することが、最も大事だと考えます。
おわりに
今回は、精神科の看護師さんが患者さんから受ける暴力について、少し込み入った形で見てみました。
この記事を通して、精神科における暴力問題のリスクをなるべく分かりやすくご紹介することに務めましたが、いかがでしたか。
これから精神科で働くことを考えておられる方、または現在すでに働いていて、お悩みを抱えておられる方に少しでも役に立てることができれば幸いです。
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